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蒟蒻脱●●(きかんげんてい☆)
日々思いついたSS投下場所
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※一応12話のネタバレなのでまあ、配信始まってるけど畳んでおきまする。しぶにも置いてあるよ。なんか忍者さんが調子悪かったので。
書いたのはこないだの日曜日ですた。なんか、うん、勢いで。

あんまりあからさまじゃないけど一応虎←兎っぽい。



ぼそぼそと誰かが話をしている。
世界の音は遠い。

「今病院に搬送されたって」
ふいにすぐ隣で声がした。やけにクリアに聞こえたな、と思って視線を動かすと、見たことのない険しい表情のファイヤーエンブレムがいた。腕のコールではなく携帯電話を使って先ほどから何事か情報収集をしている。彼は人を使う立場だから、放送以外に拾える情報を情報を可能な限り集めているのだ、と気付く。
「……そう、ですか」
渇いて干からびた喉の奥から、その単語を搾り出す。音が遠いのは相変わらずで、頭の中はたった今映し出されたモニタの向こう側の光景が無音でなんども繰り返し再生されている。
「ちょっとアンタ」
白くなってるわよ、と落とされた視線の先には握り締めた自分の手がある。感覚がなくなるくらい、そうしていたらしい。困った子ねと言いたげに僅かに口元を緩め、ゆっくり手のひらを解いてから「行って来なさい」とはっきりと言う。
「………なぜです」
あの人は、だって、僕を。
信じてもいいと、そう思っていたのに。
ああ、と言葉にしてから溜息を吐く。
悔しかったのだ。虎徹の自分への信頼が、そこまでではなかった事が。
「あんたたち、コンビでしょ?」
一応、と皮肉げに付け足したファイヤーエンブレムの言葉は、心の奥を抉るようだ。
「…一応、ね…」
笑いたいのか泣きたいのか、変な気分になった。
あの人は悪かったといってくれたのに。
「…返事も、しないで」
混乱と怒りの記憶に暴走すること、NEXTという存在が一般人にとって危険なものであると知らしめることはイコールだと理解していたはずだ。だから虎徹はあの場所に来た。バーナビーがまだそれと向き合えると思ってはいなかったから。
「今の僕には、その資格がないですから」
「ばっかじゃないのっ!」
金切り声と一緒に来た衝撃で目の前が一瞬ちかちかした。
残っていたほかのヒーローも目を丸くしている。
「アンタがそんなだから!だから…ッ」
泣くのを堪えて頭ひとつ小柄な彼女は言葉を詰まらせて俯いた。
「…あなたに、言われる筋合いは」
なによ、と肩を震わせた彼女の周りの気温が幾分下がったような気がした。
「その辺にしときなさい」
割って入ったファイヤーエンブレムに「その怒りは取っときなさいよ」と諭されてブルーローズは微かに頷いた。
「みんなね、言いたいことはたくさんあるのよ。でもアンタもわかってんでしょ?」
それは、生きていてこそだ。
だから虎徹は人の命にあれほどこだわる。目の前で両親を亡くしたバーナビーにも鬱陶しいほどの気を遣う。
人が死ぬってことを何だと思っていると怒鳴られたことの意味を、今頃。
「今はタイガーの生命力を信じましょ。大丈夫、そんな顔しないの」
その言葉が気休めのようだ。あの映像を見る限り、能力を失ってなおあの攻撃に耐えられるような設計に、このスーツは出来ていないのだから。
それでも立ち上がっていたのは、多分、バーナビーまで引っ張り出すまいとした、あの人の意地だ。
それが解ってしまうほど、近くまで来ていた。
「…ッ」
コンビとはいえ、赤の他人にどうしてそこまで、と思う。
信じて欲しかったのに信じてもらえなかったことも、全部、悔しくて。
「どっちみち、次のご指名はアンタでしょ。アニエスが作ってくれた時間を無駄にすんじゃないわよ」
「………はい」
そうだ、まだ終わりじゃない。
少しでもできることをして、両親の敵を取ること。
今となっては全市民の、他のヒーローたちの、ワイルドタイガーの、すべての命を後ろにして護る事。
出来ることをできるだけしよう、と資料室に向かって部屋を出る。詳細は不明とされたジェイクの能力に関する資料を少しでも見つけなければ。スカイハイが、ロックバイソンが挑んだ映像。最後に虎徹がくれたヒント。
「…大丈夫だ…」
ヒーローが簡単に死ぬわけないだろ、とあの人なら絶対、そう言うに決まっている。

* * *

明け方の廊下は静まり返っていて、ぽつんと灯った赤い光が示すその部屋の名称を余計に意識させた。
ゆっくりと、扉の前で立ち止まる。
ヒーロースーツに包まれた指先で、ほんの少し扉に触れて目を閉じる。
この扉の向こうは、きっとこんなに静かな世界じゃないはずだ。懸命に、自分の戦いを続けている人たちの世界。
ただ、祈る。
信じていますよ、と。
「…今度こそ、あなたを信じていますよ」
あの人が必ず戻ってくると、信じている。そんな自分にも驚いたけれど。
ゆっくりと瞼を上げる。
与えられた時間の期限、朝陽が一筋薄闇を割いて顔を出した。
知らず、微かに笑みを浮かべていた唇を引き締めて、軽く頬を叩く。
「さあ、」

行って来ます、オジサン。

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