忍者ブログ
蒟蒻脱●●(きかんげんてい☆)
日々思いついたSS投下場所
12

1 2 3 4 5 6 78 9 10 11 12 13 1415 16 17 18 19 20 2122 23 24 25 26 27 2829 30 31
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

13話の安寿さんと楓ちゃんの表情の差がもやっとしたので書いた。存外難しくて今頃です… あと多分虎兎です。しぶにも上がってます。

「おばあちゃん怖い顔してる」
そう言われて、凝視していたテレビ画面からゆっくりと視線を引きはがした。
「スカイハイもダメだったんだもん、タイガーじゃ無理だよ」
子供は時として残酷だ。知らないとはいえ、たった今映し出されている画面の向こうで倒れたまま動かないヒーローは、彼女の実の父親なのに。
唇を尖らせて孫はそう言うけれど。
「…かえで」
アンタの、お父さんが。
「でもっ大丈夫だよ!バーナビーがきっとやっつけてくれるからね!ね!おばあちゃん!」
言いかけた言葉を遮るように、孫娘はくるりと回って明るく笑って言った。スケートを習っているからか、ことあるごとにくるくると回るのは孫娘の癖だ。
「…そうだね」
絶対に秘密にしてくれと、あの息子にしては大真面目な顔で約束したことだ。
「俺がヒーローやってること、楓には秘密にしてくれ。俺たちは正義のためって名目で、いろんな奴から恨みも買う。だから家族がいるってことも秘密だし会社とのそういう契約だから」
頼むよ、母さん。
まだ目も開かない赤ん坊を抱いた息子は、いつだったかそう言って頭を下げた。

* * *

あまり人気のないフロアの、目的の病室付近できょろきょろと周りを見回しながら歩く年配の女性の姿を見つけて首を傾げる。現在、このフロアには先日の騒ぎで負傷したヒーローが入院中で、一般人の立ち入りは制限されているはずだ。明らかに一般人と解る女性は片手に風呂敷包みを持ち、片手に紙袋を提げている。警備員は何をしているのだろう。見舞いに来たのだろうが、ここは違うんじゃないかなと思いつつ、注意を促すべきかどうかを考える。自分もヒーローで、しかも顔が広く知れ渡っているからこういうときは厄介だ。ヒーローである自分がいると知られてしまったら、一応伏せられている他のヒーローたちの入院先を暴露してしまうことになりかねない。
面倒だな、と溜息を吐いた拍子に前を行く女性が振り返った。しまった、と思った時は遅く、女性は半信半疑な表情から明らかに安堵した様子でこちらに近づいてくる。
「…バーナビーさん、かしら?」
「……そうですが、なにかご用ですか?ここは一般人の立ち入りが制限されているはずなんですが」
困ったな、と思いつつ条件反射で営業用の顔を作ってしまった。やんわりと立ち退きを要求したのに、女性はそうでしょうねと相槌を打ってから続ける。
「申し遅れまして、私…ああどうしましょう、ここは虎徹でいいのかしら?虎徹の母でございます」
「……!」
そう名乗って女性は頭を下げた。
「会社の、ロイズさん、だったかしら…ここに家のバカ息子がいると連絡をいただいたものですから。でも迷ってしまって、名前の表示がないんですもの…」
秘密厳守、ということで病室のプレートは無記名だ。それでこの人は迷っていたのだという。
「…あ、えっと…」
正直、あの人の家族の話なんてちらりとしか聞いていなくて、娘さんがいて奥さんが亡くなっているらしいことは理解していても、虎徹の両親や兄弟までの話は相変わらず一切出てこない。よく考えるとヒーローという特殊な職業についていることを除外しても、虎徹は徹底して自分のことに関しては口をつぐんでいるのだということに気付かされる。
「それにしてもまあ、いつもうちのバカ息子がお世話になって…ご迷惑かけてませんかねぇあの子と来たら本当に余計なところまでお節介でそのくせおっちょこちょいで…」
「………はあ、いえ、その…」
この年代の女性がおしゃべり好き、と言うより女性はほとんどお喋り好きだとわかってはいても捕まったなァ、感は否めない。
「あの、先輩の病室でしたら僕がご案内しますよ。こちらです」
紙袋と風呂敷包みをさりげなく引き取ってにこりと笑うと、まあどうもねとその人も笑みを返した。

軽い音を立てて扉が開くと、さして広くない部屋でベッドの上に半身を起こして新聞を読んでいる人がいる。絶対安静ですよとアレだけお説教されていたくせに、もう起き上がっていて、思わず眉間にしわを寄せた。
「…なんで起きてるんです」
呆れたように溜息交じりに声を掛けると、新聞から顔を上げた虎徹がふ、と目元を和ませた。
「暇なんだもん」
「……」
子供ですかと言いたいのをぐっとこらえて、案内してきた人に場所を譲った。おそらく自分が言うより効果があるんだろうと、思ったから。
「なんだい、ピンピンしてるじゃないか。なんで入院なんてしてるのか不思議だねぇ」
病室の中を目にするなり一息でそう言ってやれやれと溜息を吐く。
突然現れた人物に心底驚いたようで、ひとしきり固まってからようやく絞り出した言葉がいつもと少しニュアンスが違っていた。
「…えー、と、なんで母ちゃんがいるの…」
「なんでも何も連絡もらったからに決まってるだろ。それに!アタシだってあの中継は見てたんだからね」
ちら、と視線をバーナビーに移した。
「ほんとに、この人がいなかったらお前なんてあんなけちょんけちょんにされてさ!情けないやら悔しいやら…」
「……ええとそこまで言わずとも」
「………まあそのなんだ、悪かったよ…」
口では威勢よく罵詈雑言を吐き出していても、その瞳が赤く潤んでいることくらい虎徹もバーナビーも気付いている。目を泳がせながらぼそぼそといい年の男二人が困惑するのを余所にひとしきりぶつぶつと文句を言い終えたあと「そう言えばアントニオくんはどこだい」とこれまた唐突に話題がとんだ。
「なんで」
「お見舞いに行くに決まってんだろ。とっておき持ってきたんだからね!…あんたはぴんぴんしてるんだしもういいわ」
はー、と一息に吐き出して再びバーナビーのほうへと顔を向ける。
「悪いんだけどバーナビーさん、アントニオのところも教えてもらえるかしら?」
「…アントニオ…アント…あ、ロックバイソンさんですか。えーと、確かこちらです」
こちらも再び先に立って歩き出すと、そうだと彼女は立ち止まり持っていた紙袋のほうを空いていたベッドに置いた。
「あんたの着替えとかね、ひと通り入ってると思うから」
ということは、風呂敷のほうがお見舞いか。
「なんだよ、こっちにはなしか?」
唇を尖らせてぼやくいい大人に、溜息とともに苦笑が零れた。
「飲める状況ですかあなた」
「アンタねぇ…」
ほぼ同時に呆れたような呟きが重なり、冗談だよ、とやっぱりふてくされたようにその人も言った。

* * *

病室を出て目的の部屋へとその人を案内しながら、少しだけ話をした。同じフロアの別の部屋だから、そんなに時間があるわけじゃない。
「本当に、なんていったらいいのか」
緩やかに紡がれた言葉に、少し視線を下げる。
「バーナビーさんのおかげでたくさんの人が救われたのも、あの子がまあ、無事だったのも…」
中継を見ていたと言っていた。だから当然、虎徹がぼろぼろに叩きのめされて生きているのか死んでいるのか分からなかったところも見ていたということだ。あの悪趣味なぬいぐるみが、それこそ張り付くようにカメラを回し続けていたことはバーナビーも承知している。
「…無事で、よかったですよ、…ほんとうに」
独り言のように零れた囁きに、その人は目を細めてありがとうございますと頭を下げる。
「うちの孫は、ああ、あの子の娘は、あの子がヒーローをやっていることを知りません。バーナビーさんのファンで、タイガーじゃダメだって」
ふふ、と小さく笑ってはいても、その無邪気な一言にこの人はどれほどの衝撃を受けたのだろう、と思うと。
「…それは…」
「いえ、いいんですよ。それがあの子たちとの約束です。仕方のない子ですが、それがあの子の選んだ道なんだから」
せいぜい無事を祈るくらいですよ、とその人は穏やかに言った。
それは、母親の顔だ、と思った。



「さっきの」
「…は?」
案内を終えて病室に戻ると、誰かが見舞いと称して置いていった雑誌をぱらぱらと捲りながら退屈そうに顔を上げた。
「さっきの、アルコールがいいか悪いかの。体が治ったら何でも好きな銘柄を差し上げますから、一緒に飲みませんか」
無人のベッドに置いたままだった紙袋の中身を適当に棚の中に詰め込みながら言うと、虎徹は軽く目を見開いてたっぷり沈黙したあとふと目元を和ませた。
「…ま、そーだよな」
ばさばさと音を立てる雑誌の何が面白いのか、と首を傾げると、やけにニヤニヤとした顔にぶつかってなんだかイラッとした。
「…なんですその顔。僕何かヘンなこと言いました?」
「んー?べぇっつに。バニーちゃんは可愛いなと思って」
「今すぐそこの窓から放り出しても僕は構いませんけど」
「えっとなんでもないですごめんなさい」
ははは、と反省していなさそうな顔でその人は笑う。
「うん、でも一緒に飲もうとか、おじさん嬉しいなーと思ってな」
そう言った顔がひどく優しくて、一瞬言葉に詰まった。
「………べつに」
たまたま、かわいそうだと思ったからですよと苦し紛れに付け足したら、やっぱ可愛くないねとその人はまた笑った。
でも多分、それでいいのだ、今はまだ。
「そういえばさっきあなたのお母さんと写真撮りましたよ。お孫さんに自慢するって」
「…なんだと?!お前なんでそういうこと簡単にオーケーすんだよ楓はお前のファンなんだぞ?!」
「そうですかそれは光栄ですねぇ」

そんな他愛のないやり取りがこの人と出来る、と言うことが少し。
幸せなのかな、と思った。

拍手[0回]

PR
コメントをどうぞ。
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カウンター
読んだ本
プロフィール
HN:
綾沙かへる
性別:
非公開
アクセス解析

10  9  8  7  6  5  4  3  2 
【虎兎】触って、触って、さわる。 きみのとなり
忍者ブログ [PR]