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蒟蒻脱●●(きかんげんてい☆)
日々思いついたSS投下場所
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13話のあとの捏造とか妄想とかうふふ。
私しか楽しくありません。
それにしたってちょっと…もう少しやりようあったかもなと思ったり思わなかったり…

最近しぶに落とすほうが早いです。
一応畳んでおきます。

きみのとなり


長い夢を見ている、と思った。
遠くで誰かが何か言っている。誰かと誰かが会話をしている。もやのかかったような思考の中で、遠かった音が次第に近付いてくるのをボンヤリと聴いている。
不意に耳慣れた呼び出し音が聞こえて、急に意識がクリアになった。けれど体が鉛のように重たくて、指一本動かすにも相当な気力を使う。瞼が重くて、なかなか視界が開けない。
こら、しっかりしろ虎徹。
自分で自分に気合を入れてみてもなかなか思う通りになってくれない身体をどうにか動かして、ようやく指先が少し動いたような気がした。ゆっくりと瞼を押し上げ、薄く開いた視界の端で金色の髪が揺れた。
「…バニー…?」
囁くというよりただと息に微かに混じっただけの言葉を、それでも視界の先にいた人物は耳聡く捕らえてくれたようだった。はっとしたように振り向く瞳はエメラルドではなく、ほんの少しがっかりした。
そうだ、と思い出す。
バーナビーは、今頃情けなく敗れた自分たちの代わりにあの場所に立っているはずだ。
「タイガーさん…!よかった気がついたんですね!」
こらこら、ヒーローがそんなに簡単に泣いちゃだめだろ、と思うと唇の端が少し上がった。
ようやく霞の晴れた視線の先には意識を失う前まで立っていた元スタジアムと、赤を基調としたヒーロースーツのバーナビーが映っているモニタがある。その前に折紙、その横のベッドにはロックバイソン、さらにその向こうにスカイハイがいる。
「あーなんかあっちこっち変な感じだわ…どんくらい寝てたの俺」
さすがに彼らのように半身を起こすことを諦めて隣のベッドにいたアントニオに訊いてみる。まだ翌日だ、と返事があった。
自分があのスタジアムに立ったとき、この二人はすでに敗退していた。
「おう、お前らも生きててよかったわ」
軽く笑うと、それだけで身体中の色々なところが痛みを訴える。最悪だ。
それでもオレはヒーローだから、生きていて動ける限りはそこへいけなくてはいけない。だから当然のように煩わしかった呼吸器を外し、点滴の針を引き抜いた。
「ちょ、ちょっとタイガーさん無理ですよ!」
不具合を訴える身体を無視して勢いをつけて起き上がると、折紙が慌てて押し戻そうとした。担ぎ出したときに比べて随分回復したようだった。の、わりに怖い顔をしているから、目元を緩めてやわらかな金髪の頭をぽんぽんと叩く。
だいじょーぶだって。
だからそれは当たり前のように音になって滑り出た。
「で、俺はどこに行けばいい?」

* * *

「アンタ馬鹿でしょう、馬鹿に決まってる!こんな身体で死ぬ気ですか!」
次に目が覚めたとき、最初に聞こえたのはそんな言葉だった、と思う。そう言ったバーナビーだって病院着だし、点滴してるし、そこらじゅう包帯だらけだ。
なんだよお互い様じゃねーか。ホント、笑うしかないなと思ったら掠れた苦笑が零れた。
「笑ってる場合ですか…!」
あーあ、綺麗な顔なのに、そんなに眉吊り上げて台無しだよ。
「…悪かったって」
思ったより重症だったらしいから、あのあとメディアの目がなくなったとたん電池が切れるように意識が途切れている。
そういやスッゲエ顔してたよな、とだんだん思い出してきた。
後ろを歩いていたはずの人間が、急にぱったり倒れてればそりゃあ驚くだろうと思う。
「ごめんなバニー、でも俺生きてるから、そんな今にも誰か死にそうな顔でいうのやめてくれよ」
一度脱走したから警戒されているのか、室内に他の患者はいない。スカイハイもロックバイソンも大人しく寝ているらしいし、目の前にいるバーナビーは比較的軽傷で明日にも退院してもいいらしい。次に外したらベッドに縛り付けますよとすごい形相で看護師に言い渡され、相変わらず邪魔だなあと思う呼吸器の内側を曇らせて、多分ものすごく怒っているだろう俯いたままの相棒に声を掛ける。
「せっかく、これから、ちょっとは違う人生になるかと、おもっ」
小さく、本当に小さく途切れ途切れに聞こえた言葉に、ゆっくり重たい腕を上げて、誰かにしたみたいにぽんぽんと頭を撫でる。シーツを握る綺麗な指先がぴくりと震えて、子供扱いしないでくださいと呟いて顔を上げた。
「…なんだ、泣いてるかと思った」
「泣く訳ないでしょう」
何で僕がそんなことで泣かなくちゃいけないんです、とメガネを押し上げて。
「そーですね、泣きたいのはおじさんの方ですね」
そんなことを返しながら小さく笑う。
「…あなたに」
「うん?」
「あなたが、僕を信じてくれなかったって、あれ、謝ります」
少し、頭の位置が下がった。
「…意外と律儀だな」
そんなことを気にしてたのかとか、苦笑が零れる。
「あなたから見たら僕はまだまだ危なっかしいんでしょうけどね。それに、僕はあなたのパートナーなんですから期待には応えたいと思いますよ」
一瞬、心の奥まで見透かされそうなほどの澄んだ光を湛えた瞳に、ぎくりとする。急に素直になったのは両親の件が解決した所為なのかそれとも他に理由があるのか。どちらにしろ、立ち位置が少し変わったことは否定できないらしい。
「だから、もうこんな危ないことしないでくださいよ」
気付いているだろうか、とふと思う。
今そう言っているバーナビーの表情が、ひどく柔らかくて、見たことのないような笑みすら湛えていることに。
こんな顔も出来るのかと、一瞬見蕩れかけて、ゆっくり瞬きをひとつした。
「おじさん涙出そうだわ何時の間にこんなに成長したのバニーちゃん」
軽口のように笑いながら言ったら、僅かに眉を上げていえいえ、とまたメガネを押し上げる。
「あなたが万一死んだりしたら後味悪いですからね」
「…ちょっとマジひどくないそれ」
結局無自覚なのな、と続いた言葉に少し安堵した。
何でほっとしてるんだオレ。
しばし考える。
ああそうか、また失うことになったらきっと今度は耐えられない、と。
随分近くなった距離に少しだけ恐怖を覚えていることを笑って誤魔化した。

だってそれしか出来ないんだ。

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