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蒟蒻脱●●(きかんげんてい☆)
日々思いついたSS投下場所
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そして先週末に21話を見てもうたまらんたまらんと思って書き殴った妄想が暴走して捏造しました。
名前のない人が出張っています。
おじさんはきっとおじさんの身近な人にとっても人気があったに違いないよねと思って書いた。

BADENDもいいよねーいつか書こうかねと思いつつ多分かけないだろうなあwww

あと若干長いですどこで切っていいのかわからんかったから…

 最初におかしい、と思ったのは彼をよく知っているからだ。
 そんなはずがない。
 あのお人好しでいつだって他人優先で、とても優しいヒーローが。
 人を殺めるなんて、そんなの何かの間違いに決まっている。

 テレビのニュースに皆の視線が釘付けだった。ポセイドンライン本社ロビーの巨大なスクリーンで、今まさに凶悪な殺人犯として映し出されているその人物を見て目を丸くした。
「そんなはずない」
 小さく零れた言葉は雑踏にまぎれ、近くを素通りしていった他の社員に聞き咎められることもなかった。
 私が、知っている彼が、そんなことをするはずかないじゃないか。
 とにかくもう少し情報を集めて、それから。
 古巣の仲間たちのどれだけがこの報道を信じたのかは解らないが、少なくとも一人は、絶対に信じない人物を知っている。自分と同じく、ただ彼にいろいろなものを託して、共に歩いてきた大事な仲間だ。足早にロビーを通りぬけ、地下にあるヒーロー事業部の研究室に駆け込んだ。すでに所属ヒーローのスタンバイは終わり、出動したあとのメンテナンス準備や各機器の調整に研究員たちが走り回っている。
 下っ端研究員というよりここと経理営業他との折衝役としての役割が強いから、今の時点ではまだ自分の出番はないだろう。そそくさと自分のオフィスに閉じこもり、配達されていた新聞を広げながら今も同じ会社で働く仲間に連絡を取った。
 新聞にも大きく報道されている。
「そんはずない…」
 震える指でコールボタンを押した相手は、彼がワイルドタイガーだと知っている数少ない同僚だ。

* * * 

 自分の呼吸がうるさい。
 生身で駆けずり回っていると、斎藤さんの作ってくれたスーツがいかに性能がいいか実感する。今度ちゃんと礼を言わないといけないなァ、なんてのんびりしていられるほど余裕はない。いけね、と思って転がるようにその場を離れると、小汚いレンガ造りの路地は圧縮された空気がぶつかってガラガラと崩れ落ちる。
「なんで本気なんだあのやろっ」
 普段器物損壊がどうこううるさいはずのヒーローの捕り物劇で、ここまで街を破壊しても文句が出ない程の事件は滅多にない。
「俺はどんだけ凶悪犯だよくそっ」
 とにかくスカイハイは厄介だ。なにしろ空を飛んでいて、ほんの少し移動すると運悪く見つかって衝撃波が飛んでくる。
「あいつほんっと強かったんだなぁ」
 薄暗い空家らしき場所に転がり込んで大きく息を吐き出した。まだ能力が使えるほど回復しないし、戻ったとしても果たしていつまで持つのだろう。
 走り回ったせいで落ちてきた髪を掻き上げ、頬を伝って落ちる汗を拭う。この真冬にこんだけ汗かくとかどういうことだよと苦笑する。
 なにがなんだかよくわからないうちにヒーロー達に攻撃されている。まるで虎徹のことなんか知らない人間のように容赦なく、また一般人でなくNEXTだと報道されているせいでいつもは加減する能力も全開だ。つまり最悪だ。
 伊達にヒーローを10年やっているわけじゃなく、生身で対処する方法もいくつかはあるが、1人で6人相手じゃ限度がある、というか無茶すぎる。少し休めるかと思えば身体のあちこちが鈍く痛んで、気を抜けば立ち上がれないほどの疲労感を思い出させる。
「あーあ、ホント最悪だわ」
 電撃で負った火傷、体当たりで負った打身、衝撃波で負った裂傷、多分致命傷は避けている、と思っても細かく痛いし血を失えば動けなくなるのも時間の問題だ。何となくロックバイソンを受け止めたときの打身がヤバイ気がするなあ、と思いながら胸の下あたりを押さえて立ち上がった。
「いてて…あのクソ牛マジで来やがって…」
 しかも虎徹を知らない、と言い切った。ハイスクールから腐れ縁の自分をだ。もう疑いようもなく、何らかの方法で彼らの記憶が操作されているということに思い当たった。
 誰が、何のために。
 記憶を改ざんする能力を有するNEXTがいて、そいつは多分俺のことが邪魔なんだ。
 はあ、とゆるく息を吐いて呼吸を整え、ふと身体が軽くなったところを見計らって立ち上がる。少し目眩がしたくらいで立ち止まるわけにもいかないし、とにかく情報が欲しかった。他に考える時間と、少しばかりの水分も。
 街中はあのめんどくさいスカイハイが巡回しているし、自宅の周りも当然のように年少コンビに張りつかれていたし、全く八方ふさがりだ。
 つーか、のど乾いた、とさっきから思っている。
 昨日の今日で持ち合わせも少ないし当然口座や電子マネーは止められているだろう。そういやさっき落としたな、と思い出した。
 別に生活する糧がどうの、なんて気を紛らわせるための逃避でしかない。実家にいる母親や兄、最愛の娘に迷惑がかかっていないかどうか、あの報道が、真実だと、思われていないかどうか。
 ただ気にかかるのはそこだけだ。
「…は、まてよ」
 もうひとつ。
 昨日から行方不明の相棒のことだ。
 ちょっとばかり変則的な勤務のれっきとした会社員のくせに、無断欠勤とか多くないですかね、と苦笑する。今のところ、追ってきたヒーローの中にバーナビーの姿はなかった。何事もないなら、彼が出てくるのも時間の問題だろう。
「お前は、どっちだろうなあ…なあ、バニー」
 無事でいればいい。何事もなければいい。
 でもそうしたら、きっとバーナビーは虎徹を捕まえるために出てくる。
 その時、俺はどうすればいい?
「…っ?!」
 一度閉じた瞳を再び開いて、嫌な予感がするからまた廃墟の奥へと移動する。今までいた場所に瓦礫が降ってくるのを確認して、舌打しながら出口を探した。
「ああもう、あいつらめんどくせえ!」
 こんなときだけ連携がよくて、追われているのに少し笑った。


 ベンさん、と手を上げると、小太りの男がイエローキャブから降りて歩いてくる。おそらく駆け出したいところを、ゆっくりといつものようにのんびり歩いてくる。勘のいい人だ、今回の騒動にも何か思うところがあるのだろう。自分が連絡したことも踏まえて。
「おう、久しぶりだな!同じ社にいるってのに内勤とはちっとも顔合わせねぇ」
「そうですね、ベンさんいつもいないからたまにランチするくらいが精いっぱいですよ」
 当たり障りのない話をしてランチのセットを二人分オーダーする。カフェのオープンテラスは同じようにランチを取るグループやサラリーマンでほぼ満席だ。ざわざわとした雑踏が程良く隣のテーブルの音を消してくれる。
「…ベンさん、あのニュース」
「…おう、見た見た。あれがそんなことできるわっきゃねぇだろ?何かの間違いか、もしくは…」
「何かトラブルに巻き込まれたか?」
 トラブルなんて可愛い表現で済んでいればいいが。
「私の所属しているラボでは他に彼の正体を知る人もいないからすっかりあの報道を信じてしまっていて…」
 肩が落ちた。
 ワイルドタイガーに憧れて、トップマグに就職したのだ。そのくらい、彼を崇拝している。
「ま、そう落ち込むな」
 トントン、とテーブルをたたく太い指が見えた。「ランチが来るぞ」その言葉とともにす、と滑らされたメモには、車のナンバーが書いてある。
「俺の営業車のナンバーだ。大体日暮れまで乗ってるけど、今日明日あたりであいつを捕まえなくちゃ毎晩午前様だな」
 ははは、と軽く冗談めかして笑ってはいても、彼がここに来るまでワイルドタイガーを探して街中を流していただろうことは想像できる。
 お待たせしました、と若いウェイトレスがランチプレートのセットを置いていく。ふと、ウェイトレスがメモに目を落として動きが止まって、視線の先を見て慌ててメモをポケットに落とした。
「何慌ててんだ恥ずかしい写真か?」
 ははは、と動じることもなく笑ったかつての同僚に、だってこの密談困るでしょと言いかけたところで、最後のコーヒーをトレイから降ろしたウェイトレスが笑った。
「やだあ、覚えてないんですね、私バイトしてたのに出版部で」
 くすくすと笑って、まだ年若いウェイトレスは「私も見かけたら伝えておきますね」と方目をつむって見せる。
「私の中でも、あの人は一番のヒーローだもの」
 ああ、こんなに。
 彼を応援してくれる人はこんなにいるのだと、思うと。
「…ベンさん」
「…うん、あいつは幸せ者だなあ」
「ほんとですよね…」
 ポケットの中のメモが、とても大切なつながりのように思えて、少し熱を帯びたような気がした。

* * *

 それは全くの偶然で、彼を見かけたのは仕事を終えて家路へと足を向けた途中だった。シルバーステージの小さな公園で一服していくのが日課だったから、いつものように、いや、いつもより少し沈んだ心持で指定席のようになっているベンチに行き、鞄を置いて溜息を吐く。
 結局こっそり探したけれど彼の姿を見ることはなかった。ヒーローTVの中継も途切れがちで、せめてベンさんとうまく合流してくれたらと願わずにいられない。
 近所のコーヒースタンドで買ってきたコーヒーをすすり、ジャケットのポケットから出したつぶれかけのシガレットに火を点けようとしたとき、ふと何かが視界の隅で動いたような気がして目を凝らすと、向こう側の茂みの影から伸びた足がある。
「…?」
 急病人か、ホームレスでも行き倒れていたらやだなと、お人好しと言われ続けても結局声を掛けてしまう性分でそっと近付く。はっきりと見えてきたその見覚えのある靴に、ポケットに入れたままだったメモが、紙切れ一枚の癖にやけに重いような気がした。
 ざり、と靴が立てる音に脚の主はびくりとして立ち上がろうとするから慌ててそっと声を掛けた。
「…もし、ワイルドタイガーだったらそのままで聞いてください」
 こちらに出てこなくても構いません、と一方的に話し続ける。
「信頼のおける仲間があなたを探しています。今まで助けてくれた分、今度は私たちがお返ししますから」
 そうしてまだほとんど手の付いていないコーヒーと、昼に貰ったメモを芝生に置いた。
「私はあなたを信じていますよワイルドタイガー。…僕のヒーロー!」
「…悪ィな。あんたトップマグのときラボにいた人か?正直助かる…と、ついでにこれ預かっててくれよ」
 聞き覚えのある低い声は相変わらず軽快で、しかもこんな下っ端の自分を覚えていてくれたとは。ヒーロー好きが高じて今の職を選んだ身としてはこの上ない幸福だ。もっとも、今はそんなことに酔いしれている時間はないのだけれど。
 茂みの向こうからふわりと投げられたそれは、彼のトレードマークでもあるハンチングだった。
「どっか落としそうでさー、助かるわ。全部終わったら取りに行くから持ってて…って、今ややこしいから隠しといてくれよ。あとでどこ行けばいい?」
 クリーム色だったはずの生地は埃と血痕で汚れ、形も崩れてしまっている。怪我をしてるのか、と聞こうとしてやめた。きっといま自分にできることはこれを大切に預かっておくことなのだ。
「…ポセイドンで。部署は違いますがベンさんと仕事をしていますよ」
「……ははっ…そっか…ベンさんとな…サンキュー、頼んだ」
 その声が、少し嬉しそうだと思う。
 必ず大切にお預かりしますと言い置いて、ゆっくりと茂みを離れる。元いたベンチまで戻って埃を払ってシワになるかもしれないけれど少し畳んで、預かったものを鞄に大切に仕舞いこんだ。


 テレビを、消した。
 凶悪な殺人犯のニュースばかりを流しているテレビは、ひどく苛立った。
 何の、話だ。
 あの人が、おばさんを殺した?そんなはずない。
「…なんで」
 最初に聴かされたときの怒りはもうない。犯人の名前は「鏑木・T・虎徹」その名に引っかかったら霞が晴れるように鮮明になったものがある。同時に、今まで何かがおかしいと思っていた、噛み合わない記憶のピースがすべて、パズルを完成させるように嵌まった。
 そうして気付く、本当に、本当は、誰が犯人で何をしようとしていたのかを。
「…てつ、さん…」
 今バーナビーが動けば、相手に気付かれてしまうだろう。ほんの少し逡巡して、騙されている振りを続けることに決めた。それを忘れた振りをして、新しいヒーロースーツに表情を閉じ込めてしまえばきっと、誰にも分らない。
 君の相棒だと言われた「ワイルドタイガー」は、同じく新しい黒いスーツでそこにいた。あの人と同じように腕を組んで、それが余計に苛立ちを募らせる。幸い、犯人に対する怒りだと勝手に周りが勘違いしてくれた。
 一言も口を開くことのない「ワイルドタイガー」と共に出動する。
 先に単独で出動したらしい「ワイルドタイガー」は、ファイヤーエンブレムやブルーローズと共に一度は虎徹を追い詰めたが、ルナティックに邪魔をされたらしい。今回ばかりはあの変人に感謝しなくては。
 スーツを装着し終わってトランスポーターを出ると、珍しく現場にその人がいた。ちり、と胸の奥に痛みが走る。フェイスを上げていなくてよかった、今すごい顔をしているに違いないから。
「君は病気療養していたことになっているよ、バーナビー」
 相変わらず穏やかな表情のまま恩人は言った。マスクで顔が隠れているから、いま自分がどんな顔で相手を見ているかは分からないと思っても。
「…そうですか」
 恩人の、いや、恩人だった人に向かって軽く頭を下げて。
「行きます」
 いま、あの人を守れるとしたら、僕だけだ。


 何だあの黒いの、と思う。
 あんなスーツは知らない。ロゴも入っていないし何より、ヒーローらしからぬブラックベースの配色が気に入らない。しかも「ワイルドタイガー」が居る。
 そんな、バカな。
 五百歩くらい譲ってあのスーツを容認するとして、それでも中に入るはずの人間がここにいるというのにその名を名乗るということ自体が、とても気に食わない。
 幸い、攻撃は緩かった。よく見ればパターンに嵌まっていてかわすことも逃げることも出来る。一度は撃退できても、次は分からない。
 元上司がくれた昔のスーツに身を包んで、並んで立つ黒いヒーローたちと対峙する。この絵面じゃ向こうがめっちゃ悪役じゃねーかと思うと苦笑が零れた。
 呼びつけたほかのヒーローたちはとっくにどこかに置いてきた。能力なしでもそのくらいの芸当は出来るのだ。最後に遅れて出てきた、ワイルドタイガーはともかく、バーナビーとは能力無しでは戦えない。避けるにしろ当てるにしろ、ハンドレッドパワーというのは同じハンドレッドパワーでしか対抗しうる術を持たないからだ。
「…良かった…」
 正直、モニタでバーナビーを見たときには心底安堵したのだ。療養中と発表していたが、隣に今回の犯人と思しき人物が立っていたらそれも怪しい。こうして向かってくるということは、結局のところバーナビーも他のヒーローたちと同じように虎徹の記憶はあの黒いのにすり替わっているのだろうと思う。
 それでも、無事な姿を見てよかった、と思えるほどにその存在は大きかった。
 中継ヘリの音がうるさい。
 一時間という休息の時間制限を挟んで何度も使ったハンドレッドパワーは、本来の半分ほどの時間しか持たなくなっている。それでも、その能力がなければバーナビーとはまともに戦えもしない。
 ワイルドタイガーを名乗るアレはおそらく、ハンドレッドパワーまでは再現できないだろう、と思ったから賭けに出た。1対1なら、バーナビーとも勝負になるかもしれないと思ったからだ。
「よーぉバニーちゃん、元気だった?」
「…………うるさい」
 短く返ってきた言葉に、やっぱりこいつも同じかあ、と溜息を零した。正直、結構堪えている。
 誰かの記憶から綺麗さっぱり消されてしまうというのは、こういうことなのだ。
 今までの日常が、真っ暗に塗りつぶされていくような感覚。
「おまえを捕まえれば、」
「ハイストップー、俺何もしてねーから!もういい加減にしろよ!…ッつっても無駄か」
 ひらひらと手を振って、首を回した。
「さて、御託はいいからどうぞーバニーちゃん?」
 わざと挑発するように言えば、スーツに走るピンク色のラインが唐突に発光して視界から消える。
「…っと」
 後ろかな、と思った通りに屈むと、頭の上を鋭い蹴りが素通りしていった。アブネーな、と思った次の瞬間に虎徹自身も青い燐光をまとって再び繰り出された蹴りを受け止める。結局同じハンドレッドパワー同士のぶつかり合いはなかなか決着がつかない。
 何度かぶつかりながらも建物の屋根を駆け抜け、ビルの壁を蹴って跳躍し、いつの間にかブロンズステージの外れ近くまで移動してきた。シルバーステージのプレートが邪魔をしてヘリは入れないその場所で、とんとんと軽く地面を蹴るバーナビーと向き合って、態勢を立て直そうとしたところで。
「マズイ…」
 す、と血の気が引くように満ちていた力が引いていく感覚。
 早すぎる、と焦ったのも束の間、一瞬で肉薄したバーナビーに反応したまでは良くても次までは防ぎようがなかった。正面を避けたと思ったら次は背後に回って、首筋に強い衝撃を受けた、と思った瞬間意識が暗く沈んでいった。

「…やっと」
 捕まえた。
 かくん、と意識を失って崩れる虎徹の腕を支えて、回りを確認する。あの黒いワイルドタイガーも、他のヒーローも、TVの中継車も居ない。ハンドレッドパワーを本気で使って移動すれば撒く事なんて訳がないのだということをはからずも証明してしまった。
「…すみません虎徹さん…」
 まだ能力が持続しているから、背負って建物から飛び降りた。
 あらかじめこの地区に誘い込む作戦だった。用意してあった古いアパートの一室に迷うことなく滑り込んで鍵を閉め、意識のない虎徹をベッドに降ろしてそっと横に膝をついた。このスーツはフェイスが開かなくて不便だ。
 虎徹のマスクを外して、細かな傷だらけの顔に息を呑んだ。ひとりで、ヒーロー6人を相手に戦ってきたのだ。
「虎徹さん…」
 頬に触れる。
 暖かい。大丈夫、まだ生きている。
 ほぼ同時に発動した能力は、虎徹のほうが先に切れていた。薄々は感じていたけれど、一言の相談もなくひとりでひっそりと引退を考えていた人。
「もう少し、そばにいてくださいよ…」
 ここから、本当の戦いが始まるのだから。
 いつだって暑苦しくも真剣に背中を押してくれた人だから。
「せめて、僕がすべてを片付けてくるまで、ここにいてくださいね」
 頬に触れて、立ち上がる。
 さあ、もう一度。

「今度こそ、僕は僕の決着をつける」


* * *


『バーナビーと犯人を見失いました』
 相変わらずヒーローTVの中継アナウンサーはは煩わしい限りだ。
 憧れたあのときのヒーロースーツで、自信たっぷりに立っていたワイルドタイガーの姿を映してくれたことには感謝する。あの黒い偽者なんか映してもらわなくてもいい。
「頑張ってくれ、僕のヒーロー!」
 ただ、手のひらを握り締めて、テレビの前に座っている。
 そんな元同僚たちが、とてもたくさん居たことを私はまだ知らない。

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【虎兎】近付くと気づくから、近寄らないで。
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